道を歩いていると、さまざまな花との出合いがあります。
ひときわ目を引く鮮やかな花、草陰にひっそりと咲き、誰にも気づかれずにその命を全うする花、そして密やかに命を繋ぐためだけに咲く花。儚さに湛えながら、それぞれの存在が自然の営みに寄り添っています。

今日は、そんな「儚さ」を感じさせてくれた花々を、歩いた道筋の記憶とともに集めてみました。

選んだのは、露草、駒繋(コマツナギ)、ヤブミョウガ、ギボウシ、南天の花です。
どれも目立たないけれど、心の奥に静かに語りかけてくるような美しさを纏っています。

①【ギボウシ】
H1005328
儚さが漂う花の代表はギボウシでしょうか。
比叡の山並みを背景に、そっと咲き始めたギボウシの花。
雨上がりの光をうけ、葉の縁に溜まる露が、花の儚さを際立たせていました。
H1005328 (1)
 昔から庭園を彩ってきたこの花は、静寂の美を語り継ぐように、
今もなお人の心をとらえて離さない。
瞬きのあいだに過ぎゆく季節の中で、ひとしずくの命がここにありました。 
H1005327
雨に濡れると溶けてしまいそうな薄くて弱々しい花です。
大きな葉の中からすっと伸びた茎に花を付ける姿は、意外にもバランスが整っています。
H1005325 (1)
朝露に揺れながら、静かに咲くギボウシの花。
その薄紫の姿は、時のはざまに浮かぶ夢のようでもありました。
過ぎゆく季節を知りながらも、そっと命を輝かせるその一瞬が、
「儚さ」という名の美が今ここにありました。

②【ヤブミョウガ】
H1005322
朝露のように、姿を現し、陽に触れれば消えてしまいそうな透明感。
ヤブミョウガの花は、見る者の心にそっと優しさを語りかけてくれます。
H1005322 -1
真っ黒な背景に浮かぶヤブミョウガの花
花は雨に濡れると透明感が増し蝋細工のような姿になります。

③【駒繋(コマツナギ)】
H1005318
夕暮れの河原、そよ風に揺れるコマツナギの花。
「駒繋ぎ」という名には諸説あり、
 ・茎が丈夫で馬を繋ぎとめられるという説
 ・馬がこの植物を好み、離れなくなるという説
  後者の方が有力とされています。


H1005319
石混じりの土手に咲く薄紅の花。
たくましさと可憐さをあわせ持つ。秋に咲く「萩」に似た美しさがあります。

「誰も見ぬ 路の片隅に咲く花は ただ風のみと 語らひにけり」
(誰にも顧みられず咲く花は、ただ風とだけ言葉を交わしていた)


⑤【露草】
H1005317
風にそよぐ露草は、万葉の昔も今も、朝の静けさに寄り添います。
咲いては消える、その儚さに心を寄せてみました。
H1005317 (1)

雅に咲く朝露の君

野辺にぽつりと咲くその姿は、まるで平安の姫君のようです。
露草の青が、古の風情をそっと呼び起こす。

朝咲いて午後には萎んでしまう花で、月草、蛍花とも呼ばれています。

H1005316-1
夏の記憶
少年の頃に見つけた露草。
あの朝の蒸気、光る露、そして誰かの優しい声が聞こえたような記憶があります。
その時も道端にそっと咲いていました。

⑥【南天の花】
H1005250 (1)

人知れず咲く白い花と黄色の蘂。
庭の片隅で房の様に咲いています。

H1005250
誰かの目にとめられることも無く咲く一房の花、風に揺れる姿は重さを感じます。

「人知らぬ 花も風も ことのはに」
(人に知られずとも、南天の花も風も、それぞれが言葉を紡いでいる)

ひととき咲き、そして去ってゆく花たち。
露に濡れ、光に透け、誰にも気づかれぬまま、そっと季節の隙間に揺れていました。
その姿は、日々に埋もれてしまいそうな感情を呼び覚ましてくれるようです。
儚さとは、消えることではなく、美しさの純度に触れること。
次にまた、誰かの足元に小さな青が咲くとき、この記憶も静かに息づいているはずです。